物の息づかい　　　　　　　　　　　　小阪修平

　ここに東松照明の最新作「プラスチックス」からの一葉がある。海岸に漂着したプラスチック製品や海藻やサンダルなどを真上から見降ろしたこのシリーズでは、物は物としての痕跡を残したまま周囲の砂のなかに融けこもうとしている。わたしたちがそこに見るのはオブジェではない。物であることを廃めようとする物の息づかい、物が色となってひろがって融けさろうとするプロセスである。
　ひょっとしたら写真を撮るとは自己を放棄することではないか。わたしはこの一葉を見てそう思った。ちょっと見ると近代絵画風の、構成されたオブジェの配列を思わせるこの一葉は、ぼんやり身をひたしていると、なんの構成する意志ももたない、かぎりないやさしさをみたしたひろがりへと反転する。いわば、死からの視線がこの一葉をつつんでいる。　昔から東松照明の撮しだす風景は不思議な光に溢れていた。そして現在、東松はもっと根底的な解体、やさしさ、包容に至ったのである。

１９９０・１・５　　　朝日ジャーナル

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